心にひびくことば

 心に響くことば、伝わることばとはなんでしょうか。たったひとことで、人生が変わってしまうようなこともあれば、日々聞き流してしまう、何となく流れてしまうようなことばもあります。また、お読みいただいている方々、特に経営者の方々におかれましても、会社の将来についての方向性や、会社が指し示す道を朝礼や社内報や会議等々、さまざまな場所、手段を用いて社員さんに訴えておられるかとは思いますが、それでもまだまだ課題意識が残っておられるのではないかと思います。

 今年の3月、Facebook創業者であるマーク・ザッカーバーグ氏が母校ハーバード大学の卒業式に呼ばれ、スピーチをしている動画が有名となりました。私自身、失礼ながら流行り物を見るような気持ちで再生をはじめましたが、笑いあり、涙あり、迫力ありの演説で、30分以上のスピーチを最後までしっかりと見切ってしまいました。ジョークや大学生だからこそ分かる笑いを交えつつも、卒業生と10歳も離れていない立場から、「私たち世代の責任」という断固たる意思で卒業生に迫るスピーチがそこにはありました。そしてなにより、「すべての人たちが、人生に意義、目的を感じられる世界をつくる」というザッカーバーグ氏の人生に対するミッションがはっきりと伝わってきました。

 また、お互いの立場を超えた共感を得ていくエピソードとして、松下電器産業(現パナソニック)創業者である松下幸之助氏は、「根本に正しい理念、正しい方針をもたなくてはならないのはいうまでもない」としながらも、それに加えて「正しい主張であっても、その正しさにとらわれて、それを強引に相手に押しつけようとすれば、かえって反発を招くということもあるだろう。やはり、同じことを訴えるのでも、説き方、訴え方が大切」と述べています(『指導者の条件』より引用)。根底には何が正しいのかという信念がありつつも、正しさのみをもって納事とせず、同時に時、場所、相手を考え、相手の心情を充分に配慮するということがあって、はじめてその考えが伝わっていくのではないでしょうか。

 私たちは話し相手に向かって熱心になればなるほど、得てして自分の話したいことを、自分のスピードで、自分から一方的に伝えてしまいがちです。創造性や幸福について研究しているアメリカの心理学者・チクセントミハイ氏は、「よい会話はジャズの即興演奏のようなものである」と述べています。そして、よい会話をはじめるための秘訣として、二つのステップを示しています。第一に、相手の目標が何であるか、相手の興味、何をやり遂げたいかを見つけ出すこと。第二に、もしこのうちのどれかについて追求していく価値があるように聞こえたなら、「相手が取り上げた話題に関して、自分自身の体験か専門的知識を利用」することのが大切であると述べ、それに加えて注意点として「会話を乗っ取らないよう、一緒に発展させながら」とアドバイスをしています。

 今回もお読みいただきありがとうございました。本稿を書きながら私自身も日々を反省することしきりです。相手に充分に配慮し、そして相手の発展を願ったことばを日々伝えていきたいものであります。

加藤 滋樹