中部経済新聞に掲載されました
着眼大局 着手小局 経営に求められる人間力 第4回
「山のように仕事が押し寄せてくる。」
本人が処理できる範囲を超え、大変悩んでいる方に、以前、お会いしました。モチベーションが上がらないときに限って、膨大な量の「やるべきこと」が迫ってくる。このような経験を持たれたことはないでしょうか。
私を含め、多くの人たちが、集中して考え続けたり、前向きな気持を保ち続けたりすることが困難であると感じています。思考が明晰(めいせき)で自分の意識が集中し、しかも外部環境が邪魔をしてこない状況に恵まれているときは、時間の感覚すら無くなり、その状態がいつまでも続いていくような気がします。しかし、本当に聡明な人は分かっています。そのようなときがいつも続けばよいが、現実はそうではないことを。
私たちは、思考が鈍く、直面していることを何とかこなしていくことが精一杯なときも経験します。最も時間が無いときこそ、最も計画を立てなければならないときであり、最もプレッシャーを感じているときこそ、最もリラックスをすることを求められるときがあります。また、大局的なことに意識を向ける必要性を強いられているときほど、実は細かい部分をきちんと片付けておく必要があるときかもしれません。不幸にも、いちばんやりたくない、いちばんやりにくいことこそが、いちばん効果的であることが現実にあります。
現実が私たちに合わせてくれることは滅多にありません。私たちは、いつも順調ではありません。私たちは意欲を保つことが困難な状況にあるときにも、賢く判断ができるように仕組みを確立し、簡単にコントロールと見通しを回復させることができる、本質的な手法を予め打ち立てておく必要があります。そのための第一歩は、日々押し寄せてくる、考えておかなければならないこと、やらなければいけないと思うことを、一旦すべて頭から解き放つこと。つまり、意識の外に記録をするということです。スマートフォン、パソコン、ノート、メモ帳、ホワイトボード、付箋など、活用できる手段はいくつもあります。
アメリカの実業家であるアンドリュー・カーネギーは「小さく砕いて、一つずつ解決すれば、解決できない問題はない」ということばを遺しています。 情報が混沌とし、バランスが崩れかけた状況に陥ったときにこそ、整理して目の前のことに集中していく。このように、全体を俯瞰し、たとえ小さな部分からであっても、着実に進めていく術を身につけることが求められているのではないでしょうか。
加藤 滋樹