中部経済新聞に掲載されました
着眼大局 着手小局 経営に求められる人間力 第7回

【着眼大局 着手小局】経営に求められる人間力
第7回
理念とともに大切にしたいこと
現場の「泣き声」に耳を澄ませてみる

 工場や倉庫を訪れた際に、床に緑や赤のテープで線が引いてあるのをご覧になったことはないでしょうか。この意味は、商品在庫や資材、台車などの器具の置き場を分かりやすく定めておくことが目的です。しかし、残念ながら多くの現場において、その定められた場所に物が置かれておらずはみ出していたり、荷物が整然と積まれておらず崩れていたりする場面を見ることがあります。これでは、在庫管理を適切に行うことができません。また、作業をする方々がつまずいてしまったり、リフトが引っ掛けてしまったりするなど、労働災害などの安全上のリスクにもなります。
 一方で、そのような会社を経営している方、とりわけ私たちにご縁をいただく皆さまは、一様に会社の理念を熱心に考えておられ、経営課題の解決に前向きに取り組んでおられます。社員の皆さんの満足度の向上や、お取引先の信用拡大にも余念がありません。もちろん、前向きな取り組みを否定するものではありませんが、会社経営における上位の概念を考えているときに限って、現実では足元の現場がおろそかになってはいないでしょうか。「良樹細根」ということばにあるように、良い経営をしていくためには、細かい根となる部分にこそ気を配ることが大切ではないでしょか。
 京セラの創業者である稲盛和夫氏は、謙虚な目でじっと観察してみると「製品の泣き声」が必ず聞こえてくる、と仰っています(「働き方」より引用)。全員参加型経営を理念とする稲盛氏のように、私たちも物事を広い視野で俯瞰(ふかん)し、理想と現実をともに大切にしていきたいものです。
 さて、あと1ヶ月と少々で新年度が始まります。新たな仲間が増えるための準備をしている会社も多くあるのではないかと思います。そんなつもりは無くとも、日々、慢心してしまい見過ごしてしまう私たちとは違い、まだ現場を知らない方々だからこそ見えてくる違和感、聞こえてくる現場からの泣き声が、もしかしたらあるかもしれません。稲盛氏は、「それはちょうど患者の体温を知るために医師が聴診器で心拍音を聞くのに似ています。製品の声に耳を傾け、その細部に目を向けることで、不良の原因やミスの要因がおのずと分かってきます」と述べています(同引用)。謙虚な思いで自らの会社を見直し、経営を見直し、生き方を見直す。現場から発せられる泣き声に耳を澄ますことができる、そんな人生を歩んでいきたいものです。

加藤 滋樹

 

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