中部経済新聞に掲載されました
着眼大局 着手小局 経営に求められる人間力 第8回
第四次産業革命ではさまざまなモノがインターネットにつながり、それをAI(人工知能)が制御するようになると言われています。昨年4月、経済産業省は「新産業総合ビジョン」の中で、第四次産業革命が到来する我が国の企業統治における課題として「最高経営責任者の下、非連続かつスピードの速い変化に対応していくことが必要であり、グローバル企業との競争であることを念頭に置いた成長目標設定、実現のための戦略・手段、タフな意思決定等、企業経営のあり方について見直す必要がある」と訴えています。
AIが制御することによる経営判断。しかし、それはあくまでも経営課題に対する羅針盤を決める一助にしかなり得ません。一方、日々、経営者やそこで働く社員の皆さまは、多かれ少なかれ、会社の今後や抱えている問題について感じておられます。日々の業務が忙しいなかで、新たな課題にチャレンジすることは、パンドラの箱を開けるようなもの。解決できなかった場合、「無力さを露呈してしまった」「やっぱり取り組まなくてもよかった」というように、会社内外の評価を下げる可能性があります。企業が取り組むべき課題と解決策を最新技術によって特定化していくという作業は、このようなリスクをはらんでいます。まさに、解決に向けた自信と覚悟を持たずして、AIを活用したマネジメントは困難であるといえます。
著名な経営学者、ピーター・ドラッカーは、その著『経営者の条件』の中で、「成果をあげるには自由に使える時間を大きくまとめる必要がある」と記しています。多忙なビジネスパーソンはスキマ時間を活用して成果をあげようとするが、それだけでは目的を達成できない。最優先すべきものに集中できるまとまった時間を確保する必要性があると警鈴を鳴らしています。また、故スティーブ・ジョブズから思想を受け継いだアップル社の最高経営責任者であるティム・クックは「レーザー・フォーカス」という造語を好んで使い、「しっかり焦点を絞り続けなさい。それも、レーザー光線のように焦点を絞るのです」と述べています。
第四次産業革命を構成するキーワードは、データサイエンス、AI、IoT、ビッグ・データ。私たちが最新の技術や考え方に迫れば迫るほど、活用する私たちには大きな人間力が問われています。焦点を絞り、集中する。そんなタフな意思決定が求められる時代、覚悟をもった決断が求められる時代が、今まさに到来しています。
加藤 滋樹