中部経済新聞に掲載されました
着眼大局 着手小局 経営に求められる人間力 第14回
桜が舞い散る季節となりましたが、いかがお過ごしでしょうか。
ちょうど昨年の今頃、カンボジアの企業家23名が一週間にわたって来日され、交流の機会をいただきました。プログラムは、自動車工場や新聞社の見学、日本人企業家とのビジネス・ミーティング、日本文化体験、そして、花見です。中部国際空港でお迎えをしたときから、ゆっくりとした速度で物事が進んで行きます。しかし、それに対する「嫌な感じ」というものは、少しも覚えることがありませんでした。後になって、それがなぜかを分かることがありましたが、そのことについては後段にて触れたいと思います。
空港の到着ゲートを出たのちには、全員での記念撮影が行われました。その後も、文字通り写真撮影の嵐が続きます。私たち日本人と大きく違うことは、全ての写真に自分自身も含めた「人」が入っているということ。得てして私たちは、風景だったり、モノだったり、その単体を被写体として写真に収めてしまいがちですが、カンボジアの皆さまは必ずそこに、人が入っています。
その後の訪問や道中においても、写真撮影は続きます。日本人の私たちが歩いて5分で到着する距離を、その2〜3倍の時間がかかって進むことも多々ありました。
4日ほどたった頃、気がついたことがありました。それは、同じ距離を歩くのにも日本人は「目的地に向かって一直線」ですが、カンボジアの皆さんは「目的地に至る道中も楽しんでいる」ということです。確かに私たちはカンボジアの人たちよりも進んだ技術を持ち、経済的には豊かで、沢山の移動をこなし、多くのアポイントをこなしているかもしれません。しかし、それ自体が幸せなことではないのかもしれません。
彼らは道中を楽しみ、お互いが伴侶、友人を大切にし、心からその時間を大切に過ごしていました。
幸福について研究している米国の心理学者・チクセントミハイ氏は、「永続的な喜びと満足を感じている人たちとは、活動の結果として得られる報酬が目的ではなく、活動自体に価値を感じて取り組むことができる人たちである」と述べています。
私たちは目先の何かにとらわれすぎていて、大切なものを失ってはいないでしょうか。困難を乗り越えながら目的地に辿りつくことはもちろん重要ですが、その過程からも学ぶことができ、楽しむことができるようになりたいものです。そんな幸せの価値について思い返すきっかけをいただいた一週間でした。
加藤 滋樹