思考の整理

行き詰まり、情報過多、やるべきことが多すぎて手につけられないときなど、皆さま方はどのようにして対応をしておられるでしょうか。今回は自己啓発論や精神論ではなく、ある種の手続きに沿って頭の中に押し寄せてくることを処理していくことで、自動的にストレスを解消し、物事に道筋をつけることができるという手法を述べていきたいと思います。
まず、「やるべきこと」であっても、少しでも「気になっていること」であっても、なにか頭の中で引っかかっているものは、すべて頭の外の、つまり意識の外の信頼できるシステムに書き出します。これが頭の中を空にする、というプロセスです。
次に、書き出したもののうち、「やるべきこと」ならば、タスク管理のToDoリストに書き込みます。予定、着手日や納期が決まっているものはカレンダーに書き込んだりします。一方で、すぐに行動が必要ないもの、すぐに行動に着手できないものは、どこか別の場所にメモしておきます。 あとは、こうして頭が空になっている常態を維持するために、週に一度くらいのタイミングでこのプロセスを繰り返し、振り返ります。 今回、私が述べたい重要な点は、やるべきこと、気になっていることという、不明瞭であやふやなものを頭の外に取り出して、言葉やデータとして見える化し、認識し、扱いやすくしていくというプロセスです。また、ここで頭を空にした先の、考え事を記録し保管する場所として、何を使うのか、どのようなツールを使うのかというのは、重要な関心事になるとも思われます。
まだiPhoneなどのスマート・フォンが誕生する前は、殆どの方が紙に書き込んでいたのではないでしょうか。A4のコピー用紙に書き込んだり、試行錯誤を重ねた方ですと、小さな紙に書き込んでクリップで留めるという方法をとったりする方も、しばしば見受けられました。今でこそ聞かれなくなりましたが、当時からデジタル端末で考え事を保管する方は、その端末をPDA(Personal Digital Assistant、携帯情報端末)と呼んでいました。
ある時、英語圏出身の友人はPDAのことを、あえてParietal Disgorgement Aid(脳内排出装置)と呼んでいました。この脳内排出装置という呼び方こそ、本稿の考え方に近いものと改めて感じます。この排出装置のために持ち歩くものは、カードではなくとも、リングバインダーのような小型のノートでも何でもいいのですが、「自分の外部記憶装置」として扱うノートが一つあるだけで、上手くいくのです。もちろん、その後にスマート・フォンが誕生したことによってタスク管理はEvernoteなどのクラウド・アプリ上で行うのが便利だという人が増えてきました。しかし、アプリはもちろん便利なのですが、結局のところはアプリの機能では吸収しきれない意識の死角が人間の思考にはあって、それを柔軟に受け止めることができるのは紙に落ち着く、ということもあるかもしれません。
本稿のまとめとして述べたいのは、いまやらないといけないと焦燥感を感じているもの、「忘れてはいけない」と頭の中で言い聞かせていることなどを、「すべて書き出してみてください」ということです。最初は5~10項目くらいしか書けませんが、「読むつもりだった本」「先送りにしていた雑用」「すぐにはリーチできないけれど、潜在的な可能性のあるお客さま」といったものを、意識の中から掘り起こしていくと、だいたい50以上は出てきます。
こうして書き出していくことによる効用として、気持ちが楽になっていく開放感があります。これこそが、「頭の中を空にする」という恩恵のひとつです。結局は記録する媒体は紙であれ、アプリのようなデジタルツールであれ、どちらでもよいのです。頭を空にして開放していくということ。それができることが、優先順位を立てたり、プランニングを立てたり、雑用に追われることなく創造性の高い仕事をするための前提なっているのではないでしょうか。

 加藤 滋樹