中部経済新聞に掲載されました
着眼大局 着手小局 経営に求められる人間力 第16回
「ある社員のモチベーションが低く、お客さまの評価が良くない。どうしたものか」
このような相談が経営者からありました。ビジネスライクな見方をすれば、担当替えや配置転換をすることが考えられます。短期的にお客さまの信頼回復を考えるならば、それが正しいのかも知れません。しかし、結局はその社員のためにもなりませんし、対応するリーダーのためにもなりません。それでは、この課題に対する本質的な解決策とは何でしょうか。
私たちが大切にしたいことは対話です。対面でのコミュニケーションが代表的です。また、日々感じること、思うことを書いてもらい、リーダーから前向きなフィードバックを行うことも該当します。
対話を重ねるということは、すぐに解決する楽な手法ではありません。信頼を得て、人を育てていく、前向きな思いを共有していく。極めて地味な道のりです。愛知県に生まれた著名な教育者である森信三先生は、「教育とは流れる水の上に文字を書くようなはかないものだ」といっています。対話は、まさにそれに当たります。短期間で結果が出ることではありませんが、成長を願って取り組みを続けることが重要です。
私たちは、何か困難に直面したときに、瞬間的に「これは難しい」という意識が起こってしまいます。冒頭の経営者も、「しょうがないかな」と思いかけたことでしょう。困難に直面したとき、「担当替え」のように解決策を考えることは大切です。しかし、解決策を考える、その前。いかに困難に向かっていくかという心構えこそが、本当に大切です。
難しいなと思うことは仕方ないことですし、世の中に本当に出来ないことは存在します。例えば、私は100メートルを9秒台で走ることは絶対できません。体操選手のように宙返りをすることも難しいでしょう。それでも「やればできる」こともたくさんあります。では、やればできると思えるにはどうしたらよいのでしょうか。これは、「もう少しやってみよう」「もう一回やってみよう」と続けるしかありません。対話というものはこの道のりです。
かつて、高名な和尚さんから、「古今多難」という言葉をおうかがいしました。古今多難は「ここだな」と読みます。昔も今も、多難と思う瞬間が、「ここだな!」という瞬間です。古今多難の瞬間にこそ、心を一つにして立ち向かっていく。一瞬のシグナルに気づき、まわりのひとたちとともに、真正面から立ち向かっていくことが、解決への端緒となっていくのではないでしょうか。
加藤 滋樹