中部経済新聞に掲載されました
経営者のためのコミュニケーション心理学 第2回
誰かにものをもらったとき、助けてもらったとき、他に何かをしてもらったとき、恩返しをしないといけない気持ちになりますか?
一般的には恩返しをしないといけない気持ち、恩返しをしないと居心地が悪い気持ちになるのではないでしょうか。これを、「返報性(へんぽうせい)の原理」と呼びます。
この原理はビジネスでも幅広く使われています。身近なところでいうと、スーパーの試食コーナーではないでしょうか。無料で食べさせてくれるのでついつい食べてしまいますが、その後、「お返ししないといけないな」という気持ちになります。そして、その商品を買ってしまうことが多くあるということです。
また、大手ハンバーガーチェーンがコーヒー無料というキャンペーンを時々開催します。これも何十億円という売り上げの機会損失になると思われがちです。しかし、コンビニに流れがちなコーヒーのニーズを引き寄せ、ハンバーガーや、サイドメニューとなるポテトやスイーツの売り上げを見込むというもので、実際に売り上げに大きな効果があったそうです。すなわち、無料でコーヒーをもらったのはいいけれど、「お返しをしなければいけない」という心理がはたらくことが購買意欲の向上につながるということを狙ったものです。
この返報性の原理は、意識されずとも昔から実施されていました。世界的な電機メーカーのパナソニックが創業して10年の節目となる1927年4月、創業者の松下幸之助氏は待望の角型ランプを開発しました。そのランプを「ナショナルランプ」と名付け、国民に広く行き渡らせたいと考えました。製品の実用性に確信をもっていた松下氏は、発売に際して1万個を販売店に無償配布するという思い切った売り出しを行いました。これが奏功し、翌年末には、売り上げは月3万個にも達するほどの伸びを示しました。
販売店は無料でランプをもらったので、そのお返しとして何かを行わなくては、という気持ちになり、積極的に販売に協力したことが考えられます。
最後に、この返報性の原理には、ただ単に無償配布をすれば大きなリターンがあるというものではありません。 松下幸之助氏が開発したナショナルランプは、光力が強く電池が長持ちし、手持ちでも自転車でも使えるという、消費者のニーズに叶った商品でした。こように、結局は、「無償だからといって手を抜かない」こと、誠実、真摯にお客様に対応することが前提となっており、その上での「返報性の原理」の活用という視点が大切となります。
加藤 滋樹