中部経済新聞に掲載されました
経営者のためのコミュニケーション心理学 第5回
経営者に一番求められるもの、それは構成するメンバーのモチベーションを上げていくことに尽きるのではないでしょうか。しかし、リーダーの置かれている状況は時と場合によってさまざまであり、相手によっても対応が異なることもあります。今回は、以前ご紹介した米国の心理学・経営学者であるダグラス・マクレガーによる、X理論、Y理論について、もう少し掘り下げながら、多様な場面におけるリーダーシップについて考えていきます。
1960年、マクレガーは人間のタイプやモチベーションの抱き方について、対照的な二つの「X理論、Y理論」を提唱しました。X理論が当てはまるのは「人はできるかぎり仕事をしたくない、人々は命令される方が楽なのだ」と考える人たちです。これは、性悪説的な考え方に基づくもので、「頑張った人には褒美を、頑張っていない人には罰を与える」と宣言することでモチベーションを高める「アメとムチ」が有効といえます。
一方、Y理論には「人は進んで仕事をしたがるものである、目標達成のためなら努力を惜しまないもの。自己実現欲求こそが大切」であるという人たちが当てはまります。性善説的な考えに基づいた理論です。こうしたタイプの人たちには「適切な環境を用意し、目標と責任、権限を与えること」が有効な方法です。
マクレガーは晩年、X理論とY理論だけでは企業経営は成立しないのではないかと考え、一歩進んだ理論を開発し始めました。彼が提唱した概念には、終身雇用、職場外も含めた従業員への配慮、コンセンサスによる決定などがあります。彼はそれを「Z理論」と仮称しました。しかし、その研究が深まる前にマクレガーは志半ばで亡くなってしまいました。
その遺志を継いだのがウィリアム・オオウチです。70年代にウィリアムは正式にZ理論を提唱しました。この特徵は「平等で親密」という温かな雰囲気にあり、それこそが個人を能動的に動かし、細かく監視しなくても自発的に行動を促すという点にあります。人を大切にしていく体制こそが、メンバーのモチベーションをアップできるというものです。
リーダーシップには本人の資質以外にも、チームメンバーの態度や欲求、組織の性質や構造、経済や政治といった外的要因など、様々な要因が関与しています。リーダー自身が直面する状況、そして何よりも相対する人たちの立場にたって臨機応変に考えていく、そんな姿勢で日々に臨んでいきたいものです。
加藤 滋樹