中部経済新聞に掲載されました
着眼大局 着手小局 経営に求められる人間力 第3回

【着眼大局 着手小局】経営に求められる人間力
第3回
ものごとを深く考えるには
集中の第一歩は一点突破から

 企業経営の向上について会社内で考えていく時、工場の環境が悪い、社員のモチベーションが低い、方向性が伝わらないなど、あれもこれもと課題を取り上げ総花的な議論になってしまい、結局、何も解決まで至らなかったというご経験があるのではないでしょうか。今回は人間力の大切な要素のひとつである、「物事を深く考える」ことについて、取り上げていきたいと思います。
 1995年に『EQこころの知能指数』を発表し、一躍脚光を浴びたアメリカの心理学者、ダニエル・ゴールマンは、2013年に記した『フォーカス』のなかで、現代人の特徴として集中力が欠けていること、そして集中力が続かないことをあげました。 その問題意識の要因は、多くの情報端末に触れ、それに依存した生活を送るようになってしまった現代社会であるといっています。「4、5年前までは、プレゼンで5分間のビデオを作れていたのですが、今では1分半が限度です。それまでに相手の関心を引かなければ、みんなメールのチェックをはじめてしまうんです」という広告代理店の嘆きをもとに、情報過多になれば注意力は散漫になっていくことを語っています。 ゴールマンは、集中力は筋肉と同じようなもので、向上させることも、衰えた後にリハビリをして復活させることも可能であることを示しており、そのためにマインドフルネスの大切さ、複数の仕事を同時に進めるマルチタスキングからの脱却を訴えています。
 スティーブン・リチャーズ・コヴィーは『7つの習慣』の中で、人間の特性として、問題が起きたときにすぐに解決に向かっていき「診断するのを怠ってしまう」ことを述べています。また、アメリカの心理学者、チクセント・ミハイは、集中し深く考え、心を打ち込み、なおかつ幸せな時間のことを「フロー体験」と呼んでいます。そのフロー体験を得るための条件として、「課題が適切な難易度であること」「自分で状況をコントロールでき、静かな時間が確保できること」「解決の報酬だけではなく、その過程自体に価値が見いだせること」をあげています。
 次代に向かっていく私たちには、なすべきことがあります。それは、数多ある課題の根底にあることに立ち向かい、「この一点だけでも解決をさせよう、少しでも前進させよう」と決意を持つことです。集中していく一步は、一点突破から。具体的に、明確に考えながら、小さくとも着実に、そして果敢に歩みを前に進めていきたいものです。

加藤 滋樹

 

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