中部経済新聞に掲載されました
経営者のためのコミュニケーション心理学 第11回
「今日が人生最後の日だとしたら、今日やることは本当にやりたいことだろうか」―。
アップル社を創業した、故スティーブ・ジョブズは一日のはじまりに、いつも自らに問いかけていました。また、服装はつねに黒のタートルネック、色落ちしたリーバイスのジーンズ、そしてニューバランスのスニーカーがトレードマークでもありました。
私たちのまわりには、日々の練習や努力、自分だけの約束事を繰り返すことで大きな成果を導き出しているような人たちがたくさんいます。
最高のパフォーマンスを上げるための習慣的な準備のことを、「プレ・パフォーマンス・ルーティン(Pre-Performance Routine)」と言います。たとえば、イチロー選手が打席に入る前に一定の動作をし、打席に入ってからもバット回しをして一連の動作を終えるという動作もこれに当たります。また、私自身においても、大勢の人前で話をするようなときは、必ず全体を見渡し、「批判はせず、すべてを受け入れよう」と心の中でつぶやくことを心がけています。
プレ・パフォーマンス・ルーティンを身に付けると、2つのメリットがあります。まず、自信をもって本番に臨めることが挙げられます。常に決まった手順を行うことで、行為への不安よりも、自分が行うことに注意力が向かい、目の前のことに臨む姿勢や気持ちを作り上げる効果があります。
次に、自分自身の気分や行動をうまくコントロールできるようになります。例えば、誰もが人前でのプレゼンテーションの前には緊張をします。そのような時に、自分のコントロールできない環境や聴衆のことを考えても自分自身を乱すだけですが、ルーティンを通じて自分がコントロール可能な状況であることを意識することで、緊張を解(ほぐ)し、集中力を高めることができます。
プレ・パフォーマンス・ルーティンに正解パターンはありません。舞台に出る前に目を閉じてから踏み出すという役者もいれば、診療前に近所の喫茶店に立ち寄ることが習慣になっている医師もいます。大事なのは試行錯誤を繰り返していくことです。そして、強いていうならば習慣そのものではなく、「やったことで落ち着いて成果を出すことができた」という経験そのものが重要であるともいえます。
大なり小なり私たちは外的要因に心が揺さぶられてしまいそうになりがちです。意識を自分の中へ取り戻すために、皆様も準備の習慣化をはじめてみてはいかがでしょか。
加藤 滋樹