中部経済新聞に掲載されました
着眼大局 着手小局 経営に求められる人間力 第23回

【着眼大局 着手小局】経営に求められる人間力
第23回
部下指導の性悪説と性善説
相手に合わせた対応が重要

 「部下を管理、監視することが上司の仕事だ」「部下に対し魅力ある目標を示し、権限と責任を与えるのが上司の仕事だ」。
 あなたはどちらの方でタイプでしょうか。
 前者は、人は怠ける、目を離すと悪いことをするという性悪説にもとづいた言葉です。一方で、後者は、人は本来進んで働きたがるものであり、自己実現のために自ら行動する存在であり、自由と責任を与えるという性善説の立場にたっています。
 この2つのマネジメント手法の分類は、マサチューセッツ工科大学の教授として心理学・経営学を研究したダグラス・マクレガーによって提唱された、X理論・Y理論にもとづくものです。
 X理論は、マズローの5段階欲求説における低い階層である生理的欲求や安全への欲求を持つ人を対象としています。人は生まれつき怠け者で、強制や命令されなければ動かない、という考え方にもとづいています。マネジメントは、命令、強制で管理し、目標が達成できなければ罰を与えるというアメとムチにもとづく手法をとります。
 Y理論は5段階欲求説における高い階層、社会的欲求や自己実現への欲求を持つ人たちを対象としています。人は生まれながらに嫌いなことは持っていない、条件次第で責任を受け入れ、自ら責任を取ろうとするという考え方です。マネジメントは、リーダーが魅力ある目標、自らの利益だけでなく社会全体の利益につながるビジョンを示すことによって共感を促し、権限と責任を与え、人を能動的に動かしていく方法です。
 私は2つの理論の長所や短所、是非を考えることよりも、自分のもっている傾向を相手にも強要してしまうことに注意すべきであると考えています。 X理論を持っていると、相手にもそれを当てはめたくなります。その逆もしかりです。偶然、自分と相手が同じならよいのですが、違った場合には問題が起こります。上司がX理論、部下がY理論だった場合、上司のマネジメントの強要は、相手に高圧的ととられ、モチベーションの低下を招きます。逆に上司はY理論、部下がX理論だった場合、Y理論のマネジメント手法の強要は、自主性でなく、自由放任と誤解され、同じくモチベーションの低下や思考の迷走を招きます。
 このように自分の考えや手法を誰にでも当てはめようとすることは危険なことです。私たちに求められていることは、自分を客観視し、考えを強制せず、相手にあわせた対応ができるか、ということに尽きるのではないでしょうか。

加藤 滋樹

 

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